head_img_slim
HOME > 研究内容 > 超音波瞬時振動数応用例1:歯科インプラント等締結部の評価技術

歯科インプラント等締結部の評価技術

1. 歯科インプラントにおけるねじの緩みの問題

図1に歯科インプラントの模型を示しています.歯科インプラントは顎骨にねじ込んで使う人工の歯根で,これに歯冠部(外から見える歯の部分)を締結することで義歯になります.このねじ部の緩みが問題となっており,特に放置すると次のような事態を招く恐れがあります.

・ぐらつき,破損,脱落
・細菌感染による腫れや痛み

そのため早期に緩みを検出する必要があります.しかし,従来の触診やX線検査は微小な緩みの発見が困難であり,精度は医師の経験に依存するなど問題を抱えています.また,工業分野でもねじの緩みを早期に検出したいという要請は強く,定量的で使いやすい緩み検出手法が求められています.

そこで,当研究室では歯科インプラントへの適用も視野に入れた新しいボルト緩み検査法を開発しています.


図1 歯科インプラント模型


2. ねじ側面の反射・透過波を用いる緩み評価手法の提案

本研究では,歯科インプラントのように比較的小さなねじの緩みを検査する手法として,ねじの側面から超音波を投射する方法を提案しています.この手法では図2,3に示すようにねじ山での反射波または透過波に着目します.こうすることで,歯冠部を装着したまま検査できます.

しかし,提案手法では超音波がねじ山で複雑な反射と屈折を起こします.図4は,その様子を把握するために行ったシミュレーションの結果です.この図はらせん状のねじ山を左から右へ透過する超音波が,複雑に屈折して様々な方向へ広がっていく様子を示しています.このように超音波が複雑にふるまうため,提案手法では受信した波形だけでは緩み具合を評価できません.そこで,ねじの緩みに伴う受信波形の変化を捉えるために超音波の瞬時振動数に着目しました.


図2 ねじ山からの反射波を利用する方法

図3 ねじ山からの透過波を利用する方法


図4 ねじを透過する超音波の経路


3. 実物のねじの緩み評価

図5,6に実験結果を示します.いずれも上段に波形,下段に瞬時振動数の時間変化が描かれています.図5はねじで反射した超音波を用いて緩みを調べたもので,歯科用インプラントとほぼ同径のM4ねじに対する結果です.また,図6はM4ねじを透過した超音波で緩みを調べた結果です.線の色の違いはねじを締め付けたトルクの違いを表し,凡例に書かれた数字が小さいほど緩んでいると言えます.

波形から緩みを評価することは,反射波でも透過波でも困難なことがわかります.しかし,瞬時振動数のグラフでは○で囲まれた領域に規則正しい差異が見られます.したがって,ねじ山の影響で超音波が複雑に反射,屈折しても,瞬時振動数に着目すればねじの緩みを検出できると考えられます.


図5 波形(上図)と瞬時振動数(下図)
M4ねじからの反射波を利用
図6 波形(上図)と瞬時振動数(下図)
M4ねじからの透過波を利用

現在は歯科用インプラントへの適用を目指し,実験と解析を組み合わせて以下のような視点で研究に取り組んでいます.
・超音波伝搬の3次元シミュレーションに基づく受信波形の予測と再現
・ねじの緩みが瞬時振動数の変化に現れる過程の詳細な把握
・上記を踏まえた検査手法の改良

ページトップに戻る