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ヒートシールの微小剥離部に対する超音波検査

1. ヒートシールにおける剥離検査の必要性

ヒートシールとは,薄い熱可塑性樹脂のシートを熱で溶かして接着する技術です.ヒートシールは高い密封性と剥がしやすさを両立できる包装技術として,食品,医薬品,電子部品などの包装で広く利用されています.例えば,図1に挙げるパウチと呼ばれる容器では外周部の接着にこの技術が用いられています.

しかし,接着に失敗したり劣化したりして接着境界付近に剥離が生じた場合に,そうした異常を効率よく検出,診断する方法が確立されていません.そこで,本研究ではヒートシール部の微小な剥離を検査する手法の開発を目指しています.目標は図2に示すような直径30µmほどの剥離を検出することです.


図1 ヒートシールが用いられている容器の例

図2 ヒートシール部断面図と検出したい剥離


2. 超音波とコインシデンス効果に着目した検査手法の提案

超音波をヒートシール部に当て,これを通った(透過した)超音波を観察して剥離を検出する手法を開発しています.ただし,剥離部に直接超音波を投射するだけの方法では大きな剥離しか検出できず,図2のような微小な剥離は正常部と区別できませんでした.そこで,本研究ではコインシデンス効果と呼ばれる現象を利用してヒートシール部全体が曲がる波をつくり.この波の伝播を利用して微小な剥離を検出する方法を提案しています.

コインシデンス効果とは,音波を特定の角度で薄板に入射させた際に薄板に大振幅の曲げ波が生じ,薄板の裏側から強い音波が放出される現象です.この現象は図3において入射する音波の波面が薄板上を進む速度 $c_a$ と薄板が固有に持つ曲げ波の伝播速度 $c_b$ とが一致した場合に発生します.前者の速度 $c_a$ は超音波の入射角 $\theta$ ,空気中での音速 $c$ と図3の幾何学的関係から $c_a=c/\sin \theta$ と表されるのに対し,後者の速度 $c_b$ は,薄板の曲げ剛性 $B$ ,面密度 $\rho$ ,入射波の角振動数 $\omega$ を用いて $c_b=\sqrt[4]{B\omega^2/\rho}$ と表されます.したがって,コインシデンス効果が生じる入射角 $\theta_c$ は次のように表されます. \[ \theta_c=\sin^{-1}\left({\frac{c}{\sqrt[4]{B\omega^2/\rho}}}\right) \]

超音波の送信機とヒートシール部とが上記の位置関係で配置されると,コインシデンス効果により薄板に曲げ波が生じ,図3の $x$ 軸正方向に伝播していきます.このとき,曲げ波の伝播経路に剥離があれば,剥離を越えて伝わってきた曲げ波は剥離の影響を受けて変質していると思われます.


図3 コインシデンス効果と曲げ波の関係


このような,剥離から影響を受けた曲げ波が空気中につくる超音波を観察し,実験と数値解析の双方から検討を進めています.

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