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超音波を用いた粘度検査と粘度測定

この研究の目的は超音波を用いて液体の粘度を測定する手法を開発することです.超音波が液体を透過すると周波数に依存した減衰を受け,波形が変化します.この変化を実験的に捉え,数値シミュレーションと合わせて解析することで液体の粘度の測定を試みています.


1. 粘度検査/測定法を研究する背景

ドロドロした液体は流れにくく,サラサラした液体は流れやすいと私たちは感覚的に知っています.血液はサラサラして流れやすい方が良いそうですが,壁掃除用の洗剤がすぐ流れ落ちてしまっては困ります.また,高齢になり食べ物を飲み込む能力が衰えてくると,適度な”とろみ”のある食品の方が飲み込みやすくて安全です.自動車などの機械で使われる潤滑油では,サラサラしたものとドロドロしたものをうまく使い分ける必要もあります.

こうした液体のドロドロ具合は粘度と呼ばれ,液体の性質を表す重要な指標の一つです.そのため,液体の粘度を検査/測定する方法が様々に開発されてきました.しかし,ほとんどの方法では,粘度を知りたい液体を少しだけ取り出して”粘度計”と呼ばれる分析装置に入れなければ粘度を知ることができませんでした.これでは,ボトルや袋に詰められた液体製品をそのまま検査することはできません.

そこで,図1のように容器の外から超音波を当て,液体を通った超音波を分析することで粘度を測定する方法を開発することにしました.

図1 容器の外から超音波を当てる測定法のイメージ


2. 基礎実験による検討

容器の外から超音波を当て,液体を通った結果を測定するために,図2のような実験装置を作成しました.液体はアクリル板に挟まれた空間に溜まっているので,超音波はまずアクリル板に当たり,次いで液体を通ります.その後液体とアクリルとの間で反射した超音波が再度アクリルを通って受信される形式です.液体を通ると超音波は弱くなり(減衰し),振幅が小さくなると予想されます.なお,今回当てる超音波はパルス状で,振動数は約10 MHzとしました.

この装置に,粘度の異なる6種類の油を入れて実験した結果が図3です.油は#1~6の順で粘度が低いのに対し,図3(a)の波形は#1~6の順で振幅が小さくなっています.(※振幅だけでなく受信される時刻も違っていますが,これは油の種類によって音速が異なるためで,粘度の影響とは言えません.)

このとき,単に振幅が小さくなるだけでないことが図3(b)からわかります.図3(b)は(a)の波形をフーリエ変換し,波の強さを周波数ごとに分解した図(スペクトル)です.これを見ると,粘度の低い#1の油を通ったときは10 MHzにピークがあるのに対して,粘度の高い#6の油を通ったときはおおよそ7 MHzにピークがあるとわかります.このことは粘度の高い油ほど周波数の高い波を減衰させやすいことを意味しています.また,この性質を使えば,どの周波数の波がどれだけ減衰したかを調べることによって粘度を推測することができそうです.

ただし,この実験だけでは粘度を決定できないこともわかっています.そこで,私たちは数値シミュレーションを組み合わせ,実験結果をより詳細に分析することによって様々な液体の粘度の測定を目指しています.

図2 基礎実験のための実験装置

図3 基礎実験の結果
(a) 液体を透過した超音波波形,
(b) 液体を透過した超音波のスペクトル

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